高橋 弘明 TAKAHASHI, Hiroaki

伊与木川水系におけるヒナイシドジョウの分布とその特異性

高橋弘明(株式会社 相愛)

ヒナイシドジョウ Cobitis shikokuensis Suzawa, 2006は高知県と愛媛県の西南部のみに遺存固有分布する小型のシマドジョウ属魚類である。演者は、高知県版レッドデ-タブック改定(2018年発刊)にあたり、高知県指定希少野生動植物である本種の分布と生息状況を再評価する必要が生じたため、県内の全生息水系において、2014年~2015年にかけて潜水目視と採集を主体とした調査を行った。既往の研究から、ヒナイシドジョウは水系ごとに遺伝的に分化しており、その保全は水系ごとに個別の単位として扱われるべきであること、体側斑紋パタ-ンから3型に分類されること等が明らかになっている。中でも、伊与木川水系個体群は3型の中で最も希少な3型斑紋を有する県内で唯一の集団であることが知られている。
本支流を含む伊与木川水系全24地点で調査を行った結果、生息が確認されたのは本流1地点、支流馬地川2地点の計3地点のみであった。いずれも流程に沿った分布範囲は100m未満と狭く、いつ絶滅しても不思議ではない状況であった。アロザイム分析から、伊与木川水系個体群は他の全てのヒナイシドジョウ個体群と最も初期(50~60万年前)に分岐した集団であることが示唆されており、遺伝的、形態的差異に基づき新種記載すべき要件を備えていると言える。しかし、世にその存在が認知されぬままに絶滅の危機を迎えているのが現状であり、オリジナルの生息地保全と共に、生息域外保全も視野に入れて検討すべきであると考える。