ポスター発表2015

ヒナイシドジョウとは?- 四国西南部にしかいない魚

高橋弘明(西日本科学技術研究所)

 ヒナイシドジョウCobitis shikokuensisは Suzawa(2006)により、高知県四万十川水系日の地川を模式産地とし、新種記載された。四国の固有種で、愛媛県重信川水系、高知県仁淀川水系長者川を東限とする四国西南部だけに生息する。高知県希少野生動植物保護条例指定種であり、環境省レッドデ-タブック、高知県版レッドデ-タブックともに絶滅危惧I B類に指定される希少種である。今回は、あまり知られていない本種について図鑑にも載っていない最新の情報をお知らせすると共に、あわよくば地域の皆様から情報を得られればと考えている。

生き物に名前をつける〜”ウミシダ”を例に〜

小渕正美(黒潮生物研究所)

 生き物は地球上のどんな環境にも進出しています。この地球には約1000万種類の生き物が暮らしていると推定されますが、このうち名前の付いているものは約125万種類、全体のわずか一割強に過ぎません。生き物に名前をつけてグループ分けする学問、「分類学」は、自然を認識し、読み解く第一歩とも言える学術分野です。本発表では、生き物の標本の入手から新種誕生までのプロセスを、「ウミシダ類」を例に説明します。私たちの身近な環境にも、名無しの「未記載種」はたくさん存在します。特に海の中は未記載種だらけです。いつもの自然観察から少し踏み込んで、分類学を体験してみませんか?

宿毛湾地域における海岸生物の利用と生物方言

中地シュウ(黒潮生物研究所)

 幡多地域を中心とした四国西南地域における海辺の自然と人の関わり合いについての理解を深め、生物利用等の海辺の風俗を記録・保存するため、聞き取り調査等を行い、情報を収集した。今回は宿毛湾地域(高知県宿毛市や大月町の沿岸部)における「磯遊び」の文化と生物方言について紹介した。になひろい、あさりほり、ぐじま採り、ながれこひろい、かきうち、めのりかきなど、宿毛湾地域には現在でも磯や浜に降りて、様々な海岸生物を自分で採取し、食べるという習俗が残っている。今では「食料を得る」ということより、「採る行為を楽しむ」ことに重きが置かれるようになったが、磯遊び・浜遊びが身近な自然と直に触れ合う大切な機会であることには変わりはない。海辺の生物方言のほとんどは食用となる生き物を識別するため生まれた。しかし、中には子どもの遊びのなかで息づいてきた言葉もある。今回、60代以上の方々が子供の頃に楽しんだ「ぶうぶあそび」(浜で拾える特定の巻貝の殻を使ったおはじきあそび)を再現し、そこで使われていた表情豊かな言葉を記録することができた。

四万十高校周辺のカエルの生息状況について

佐々木典唱・伊與木香寿美・樋口亮介(四万十高校)

 私たちは、カエルなどの身近な生き物が減りつつあり、このままではそれらの姿を見ることができなくなるのではないかと思い、カエルの鳴き声を録音する音声調査と、川や田んぼ周辺でカエルの探す現地調査を行った。調査をした結果、四国に生息する11種類のうち8種類のカエルを確認することができた。確認できた8種類のカエルの生息場所をまとめると、水田を好むカエルと、川を好むカエル、その両方を利用するカエルに分類できた。 最近では、田んぼをやめてしまう人が増えているため、カエルの生息環境がどんどん失われつつある。過去の研究データと比較すると、今まで繁殖できていたカエルが姿を見せなくなっていた。人工的に環境に変化を与えることで、そこに生息している生物に影響が出ているのではないかと考えた。今回の研究を通して、みんなでカエルを探すことは楽しかった。調査の結果を多くの人に知ってもらうことで、カエルに対して興味を持ってもらいたいと強く感じた。

知っていますか?足摺宇和海国立公園の魅力!〜公園内の見所とサンゴ保全の取組〜

秋山祐貴・笠貫ゆりあ(環境省土佐清水自然保護官事務所)

 国立公園とは,日本を代表する自然の風景地で,現在,全国で31ヵ所が指定されている.足摺宇和海国立公園は,四国西南部に位置し,海・山・川すべての自然を楽しめる.中でも海中景観が大きな特徴で,6地区の海域公園地区が設定されている.その1つである竜串は、1970年代以降の水質悪化やオニヒトデ大発生,2001年の西南豪雨によりサンゴが壊滅状態となった.これを受け,2006年から「竜串自然再生事業」がスタートし,海(泥土除去工事,オニヒトデ駆除),川(水質調査),山(間伐)が連携し,様々な取組を行いサンゴは見事な回復を遂げた.また,この活動を地域に広く知ってもらうため地元小学校と連携した環境学習も行っている.しかし,依然として,竜串及びその他の海域公園ではサンゴ食害生物の発生などが続いている.今後もサンゴを中心とした自然資源を守るため,モニタリングや自然を活かした地域作りに向けた取組を続けていく必要がある

くろそん手帖 石かけ編大手帖

多田さやか・川村慎也・井上紀代美(くろそん手帖活用委員会)

 くろそん手帖は地域の暮らしや風景を語るためのツールとして作成した、ユーザーが書き込んで仕上げる地域の白地図である。現在来訪者にはユーザーが増えつつあるが、地域内での利用は少ない。この状況を打開するため、「くろそん手帖大手帖」の製作を行った。前提として聞き取り等により地域内での利用が増えない主な要因を、(1)地域の情報が多すぎてテーマ設定を自分で行うハードルが高い、(2)情報の新鮮さが低くあえて自分だけで書くという行動に結びつきにくい、(3)絵やイラストを描くことへの気持ちのハードルが高いの3点と仮定した。この3つのハードルを下げるため、(1)「石かけ(石垣)」と「瀬と淵の名前」の2つのテーマを設定し、(2)1冊にみんなで書き込むこととした。また、(3)写真を多用して絵を描かなければならないという気持ちを生じにくくした。なお、多人数で使うことを考慮して、手帖を2倍に拡大した(大手帖)。結果、多くの人から情報を得ることができ、今までくろそん手帖に関わりの少なかった人にも関わりを持ってもらうことができた。また、2つのテーマについて流域を俯瞰して見ることができる大手帖が出来つつある。大手帖は地域で共有しつつ製作を継続することに意義があるように考えられる。今後は内容をさらに整理し深めつつ、テーマの増加についても検討したい。

小さな自然再生:流域の土と木で手づくり魚道

山下慎吾ほか(魚山研ほか)

 高知県土佐清水市を流れる三崎川において,研究会はたのおとが主体となり,水域生態ネットワーク回復を目的とした川の自然再生事業を実施した。
筆者らは,2011 年から地元の三崎小学校で川の授業をおこなうとともに,2013年から水生生物調査を実施してきた。それにより,三崎川は砂防堰堤による分断化の著しい河川であり,堰堤の下流側に遡上しようとする魚類などが多数滞留していることが課題としてうかびあがってきた。
そこで,河川法手続きをおこない,河川管理者である高知県から堆積土砂の活用,河川区域内占有および工作物の設置について許可を得たうえで,河口から約550mにある第一堰堤(落差1.4m)に手づくり魚道を設置した。魚道は,堰堤に堆積した河床礫と,流域の山から間伐された木を用いて,木枠土嚢工法(全長8.5m)+空石積工法(全長5.5m)のL字型階段構造とし,落差に対して1/10勾配とした。本事業には研究会はたのおとメンバーのうち有志13名と土佐清水市長が加わり,2015年1月15日までに設置を完了した。水生生物の遡上に効果があるかどうかは2月以降のモニタリング調査で判明する。
本事業の特徴は,市民主導・行政連携スタイルで実施できたことにある。それにより,設置したら終わりではなく,観察や修理等をおこないながら改良点を学ぶことができる。今後も幡多の流域再生に向けて,実践的拠点づくりを進めていく。